2018年11月某日、8歳になる息子の授業参観が終わり、設立11年目インビジョンの3回目の大規模コーポレイトリニューアルに向けて、誰もいない中目黒のオフィスに向かう。
賞味期限切れの古くなった代表メッセージを書き直すためだ。過去・現在・未来の思考をめぐらせる時は決まって「誰もいないオフィス空間で、EDMを聴きながら、ノートとペンとコーヒー」これが自分の定番である。
代表メッセージの草案はある程度固まっている。「伝えたい本質は何か?」「誰に伝えたいか?」「リアルか?」「オダシは出ているか?」など自分に言い聞かせながら、ペンを走らせる。時折、誰もが抱える小さい頃からの呪縛「ちゃんとしなさい」の声が聞こえる。その対処法はわかっている。EDMのボリュームをギリギリまで上げて、呪縛を振り払う。
言葉の断捨離を繰り返しながら、代表メッセージがようやく完成する。残りのコーヒーを一気に口に放り込んで、EDMのボリュームをアベレージまで戻す。安堵感に包まれ、心のゆとりからか、他のインビジョンリニューアルコンテンツのパトロールに向かう。TOPページ、コラム、会社情報と順調に進みながら、たまにオダシを発見すると顔が緩む。Memberのコンテンツまでスムーズに辿りついた、その時だ。咄嗟に急ブレーキをかけた。
いつもみんなに「オダシを出せ」「人の心を動かすのが言霊だ」なんて偉そうなことを言っていたおのれ自身のMember内にある吉田誠吾コンテンツが賞味期限どころの騒ぎではなく、腐っていたのだ。そう、ちゃんとした、まさしく普通で、人工的な体温を感じないコンテンツなのだ。情報化社会の悪の根源である普通のコンテンツを自分自ら流通させてしまっていたのだ。それから10分ぐらいだっただろうか、ボッーとMacの画面を眺めていた。
窓の外は、すっかり暗くなっていた。ただ、全く迷いはない。地下1階にある自動販売機で缶コーヒーを買い、40円値上がりしたばかりのタバコを一服して、すぐに机に向かう。イヤホンをつけ、EDMのボリュームを最大まで上げた。
Member内の吉田誠吾コンテンツ草案を練るために、「何を大切にしてきたか、何を大切にしていきたいか」という自問自答を反復した。インビジョンの社名には「未来を見通して、人の心を動かす」という想いを”ママの特製手作り誕生日ケーキ”並みに、たっぷりと込めたはずだ。表面的で、型にはまった、予定調和のコンテンツを洗濯したい。均一で機械的、大量生産できるレベルの薄っぺらな言葉の羅列では人の気持ちは動くはずがない。昔ながらの広告に頼りっぱなしの採用戦略、違う。過去の勝ちパターンを踏襲し新しいものにチャレンジしない組織戦略、違う。結局、企業も人も成長戦略には「志」と「発信力」が圧倒的に必要なのはこの身をもってわかっている。
志を充満させた自社コンテンツをさらに強化、発信していくために、採用マーケティングを取り入れていくこと。それを先頭に立って旗振りしている自負がある我々インビジョンのコンテンツはこんなもんじゃない。こんなもんじゃ。もっと自然に、余白のある人間臭いコンテンツ、小学生が夏休みに書く凸凹だけど手の温もりを感じる絵日記のような五感に響くコンテンツが得意なはずだ。ただ、自分だけの法則だろうか?気持ちが入りすぎた時のコンテンツは決まって、人には伝わらないことも知っている。
陸上競技100メートル走のスタート前、手足をぶらぶらさせた少しの緊張と心地の良いリラックス状態をイメージしながら、ラジオ番組のような空気感で、ナチュラルに、ナチュラルに、そう自分に言い聞かせながら、草案をカタチにしていく。
草案を固めた後は、今まで大切にしてきた言葉を捜索していく。数冊のノートをパラパラとめくっていると、ある言葉に目が止まった。「100億円ではなく100年以上続く会社を作る」2012年から新卒採用を開始した時にキャッチコピーとして使った言葉だ。継続して成長するチーム、現状維持ではなく、短期的でもない。自ら変化していきながら世の中を変えていくチーム。世界に影響を与えるチーム。100年以上なんとなくなんて続かない。そこには自分が死んでもブレない「志」が必要なのだ。
そうだ。そうなんだよ。やっぱり志なんだ。「志は細部に宿る」を胸に、人生のテーマ=志がようやく見つかった2011年4月を回想して一気にペンを走らせた。数分間の感覚だったが、気づけば1時間ほどすぎていた。ちょうどその時、ブルブルブルブルとスマホが動く。5歳になったばかりの娘からだった。「お父さん、何時に帰ってくる?」いつものお決まりのセリフだ。「今から、急いで帰るね」と電話をきり、書き上げた原稿を印刷して、Mac、ノートをリュックに雑に突っ込む。飲みかけのコーヒーをキッチンに流し、ビルのセキュリティの安全確認をして、非常階段の勝手口から脱出した。中目黒駅前の交差点、スターバックスに並ぶお客さんの笑顔を横目に、ふと思う。
「働くかっこいい大人を増やす」自分たちは今できているだろうか?
おダシ屋と 直球投げると 決めた夏
まずは日本を 感染させたい!